「マタニティ・オマージュ」

 横向きに立つ彼女の身体は極端なS字を描いていた。12月に会ったときにはそれほど目立たなかったお腹が膨らまし過ぎた風船のように膨張し、見ているこちらは危ない、危ないといちいち声を上げてしまう。けれども風船なのはわたしの方で、彼女の一挙手一投足にふわふわ翻弄される風船の前で、彼女は動じずしっかり構えていた。
2ヶ月以上前に会ったときには、自分のお腹の中でひとりでに大きくなっていく何物かに、彼女は例え尽くせないような驚きと喜びをいろんな言葉や表情や仕草で表現していた。母親になるという現実のずっしりとした重さというよりも、むしろ、初めて小さな生き物を育てる少女のように、予期せぬ発見の連続に目を輝かせているようだった。そして今、「もう『絵空事』ではないんだよね」。そう言う彼女の顔は、しっかり母の顔だ。いよいよ誕生のときが近づくにつれて、うごめく何物かは他でもない「子」となっていく。
 以前会ったときに、胎内を写した数枚のエコー写真を見せてもらった。はじめは足がなく魚のような姿の生き物が、二週間ごとの撮影で目覚しく変化していたのには驚いた。まさに人類の進化の変遷を、めまぐるしい早さで遂げているのだ。改めて、これは物凄いことだ。単なる幸福なイメージやお祝いムードが根底から揺さぶられるような、何かまたそれとは違う次元で感嘆されるべきことのような。私にとって、それは認識を超えた真実だった。
再び、その生命の秘密を抱えた神々しいお腹を前にし、その中で起ってきたことを想像してみる。何だろう。嬉しくて大声を出したくなるような、眩くてくすぐったいような、外へ飛び出したくなるような・・・
そんな気持ちになるのは私だけだろうか。
writing in Spring/2007
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